連載:和風能力系バトルもので、歴史上の人物が出てきて、ヒロインが褐色貧乳美少女の小説は最強に決まっている 第3話「将門と空也」

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決めつけ検証WEBマガジン「ドクダンヘンケングン」編集長の春眠亭あくびです。

自分と同じ性癖の人にだけ向けて書いた小説です。誰かに刺されば嬉しいです。

なお、この小説は全20話予定で、毎週水曜更新予定です。ぜひtwitterをフォローして、リアタイで楽しんでください。

それでは第3話、どうぞ。

※初めての方は1話からどうぞ↓


コウタと貫之は下山し、村に戻った。
コウタの肩には鹿が一頭。
道中見つけ、例の弓矢の和歌で仕留めた。
コウタは「こんなかわいくてみだらでなまめかしい雌鹿ちゃんを撃つというのか!」と泣いて反対したが、貫之はなんの躊躇もなく弓を引いた。
宿屋にたどり着いた貫之は、まずやっかいなじゃもんおじさんに鹿を渡して黙らせる。

「はあ、これで娘の婚礼資金はなんとかなるんじゃもん! うれしいんじゃもん!」

そういうとおじさんは足早に宿屋を去って行った。
次に貫之は、近辺の鬼と蟲を退治したことを宿屋の主人に伝える。
そして、コウタを正式に身請けしたいと申し出る。

「うっひょー! こんな額、いいんですかい?」
「ああ。コウタくんの才能を考えると、安いくらいだ」
「ありがてぇ。あのとき厄介者を拾っておいて良かった! はあ、清々した!」

悪態をつく主人だったが、その目には涙があふれ今にもこぼれそうだった。
それをみて、コウタも自分の目頭が熱くなるのを感じ、あわてて下を向く。
コウタはその後、簡素な自分の部屋に戻る。
最低限の旅支度を整えるためだ。
自分の部屋、といっても、元は単なる物置部屋だ。
主人は専用の部屋をあてがってくれようとしたが、コウタはそれを断った。
自分のせいで人が死ぬ人生がとにかくつらかった。
だから、できるだけ距離をおいた。
主人もそれを察してくれて、あえてぞんざいに扱ってくれた。
居心地が良かった。ありがたかった。
でも、もう、甘えるのはやめた。
コウタは両手で頬をパンとたたくと、まず自分の布団をきれいにたたむ。
そして、いつも使っている古いタンスの一番下から着替えを取り出す。
朱の着物に黒の小袴(こばかま)。
同じ服を何着も持っている。なぜなら、目立つからだ。
山の中で依頼人とはぐれても、この朱を目印に見つけてもらえる。
鬼に襲われても、鬼は目立つ自分をめがけてやってくる。
その隙に、依頼人を逃がすことが出来る。
きっとこの先の鬼との戦いでも、この服は役立つだろう。
コウタはそれらを風呂敷の上に置く。
そしてコウタは、少し躊躇しながら、タンスの上の引き出しをあける。
そこには、朱色のクシがひとつ。
紅葉の箔が入っていて、朱が深い。
年代物で、所々傷があり、歯がいくつか欠けている。
クシを少し眺めた後、それも風呂敷の上に置く。
そしてそれらを細長く包むと、たすき掛けにして胸の前で結ぶ。
コウタが準備を終えて店先に行くと、紀貫之はすでに宿屋の主人と話をつけていた。
手には大金。
主人はべったりと笑顔を貼り付け、高速もみてをしている。

「コウタ君、準備はできたいかい」
「ええ、大丈夫です」
「さて、それでは行こう。ご主人に挨拶もあるだろうから、私は先に外に出ているよ」
「いや、特にないです。行きましょう」
「……いいのかい?」
「はい」

コウタは少し考えた後、くるりと主人の方を向く。
主人は奥の方で大金を金庫に入れている。

「旦那、お世話になりました」
「……ぐっ、ふっ、うぅ、か、かぜひくなよぉ、ふえぇん」
「……ありがとうございました!」

大金の上に大粒の涙を流す主人を背中に感じながら、コウタは何年も世話になった宿を後にした。

*

道中、貫之は泣きながら短冊になにやら書いていた。

「ふぇーん、良い別れ際だったよぉー。せつないよぉ。かなしいよぉ」
「オレより泣くってどういうこと?」
「そんな君に、ふぐぅ、こ、この歌を捧げるよ。和歌はね、本来は鬼から採れるものではなく、こうして自由に歌って楽しむものなんだよ」

貫之は短冊に自分でしたためた和歌を詠む。

「くるとあくと ぬかれぬものを 梅の花 いつの人まに うつろひぬらむ」

「この歌はね、主人の気持ちを歌ってみたんだ。梅の花を来る日も来る日も飽きることなく観ていたのに、いつのまにか散ってしまう。梅の花とコウタ君の成長を重ねあわせてみたんだ。ご主人するからすると君は息子のような存在だったはずで、それを梅の花のはかなさと」
「いや、意味がわかりません」
「え、意味わからなかった? だから梅の花をどんなにじっと観ていてもいつの間にか散ってしまうはかなさがあるんだ。それをコウタ君の成長に」
「どうでもいい。先行きますよ」
「あ、待ってくれ!」

コウタは足早に先を急ぐ。
汗を拭くフリをして、目元を袖でぬぐう。
袖は少しぬれていた。

*

コウタと紀貫之は、東に向かうことにした。
じゃもんおじさんから聞いた情報では、東の町では若くて器量のいい女が神隠しにあうのだそうだ。
不可思議な噂の影には、たいてい高位の鬼が関わっている。
貫之の経験則により、その噂を追ってみることにしたのだ。
山道を少し行くと、街道に出た。
道なりにしばらくすすむと、貫之は眉をひそめ、しきりに首をかしげる。

「あれ? あれ? なんでー?」
「どうしました?」
「いや、ごほん。いやね、コウタ君。私はもともと京から来たんだ。京には平安京という、貴族専用の区画があってね。広大な塀で囲われていて、そこには四方の門から入るしかないんだ」
「……急に平安京の話をしてどうしたんです? 故郷が恋しくなったんです?」
「いや、そうじゃなくね。目の前のこの光景、まさに平安京そっくりなんだ」

眼前には、何処までも続く塀、塀、塀。
木々はなく、まさに裸。
そこにぽつんと現れる、巨大な塀に囲まれた町。

「よく見れば平安京ではないが、でもこんなに立派な塀を作れる予算、こんな辺境の町にあるわけがないんだが」

街道と塀が交わるところには、関所があった。
高台から門番が声をかける。

「旅人か? こんな物騒な世の中でよく悠長なことができるな」
「いや、私は朝廷からの使者だ」
「朝廷? 本当か?」
「ああ。文書もある。こちらだ」

貫之が懐から印の入った書面を見せる。門番はそれを遠目で確認すると、しばしまたれよと言ってどこかへ行ってしまった。
しばらくして、門が開く。
中には白ひげの老人がひとり。

「はるばるこのような田舎に使者様がおいでなさるとは。恐縮でございます。私が町長(まちおさ)でございます」
「そうか。私は紀貫之。帝からの勅命で、鬼退治をしている。この近辺で鬼の被害はでていないか?」
「はあ、さようでございますか、鬼ですか」
「……どうした? 都合が悪いのか?」
「いえ、その、朝廷の方には申し訳ないのですが、もう間に合っていると言いますか」
「間に合っている、というと?」

町長は門番の方をちらりとみると、まあとりあえず我が家へお越しください、お茶でも飲みながら、と言って、話を遮った。
貫之とコウタは言われるがまま後をついて行く。
リーン。
鈴の音。
音の出所をコウタが見ると、ひとりの僧侶が門のそばに立っている。
全身黒づくめ。黒の法衣(ほうえ)に袈裟も真っ黒。
頭にかぶった笠からは、ひどいクマとやせこけた頬が見える。
なぜここにいるのだろうと一瞬思ったが、かまわず歩を進めるコウタ。
と、様子がおかしい。
コウタ以外の全員が、その僧に吸い寄せられるように歩を止めている。
村長に門番、貫之まで、全員じーっと熱心に僧の顔を覗いている。
僧はまた、なにかごにょごにょと説法のようなものを話しているが、声量がなさ過ぎてコウタには聞こえてこない。

「貫之さん? 何か気になることでも?」

コウタの高い声が響き渡る。
山で鍛えたその発声は、貫之のみならず他の者もビクッとさせる。

「あ、ああ。そうだったな、コウタ君すまない。どうにも気になってしまって。普段こんなことはないんだが。いこうか町長」
「は、はい。わたくしも何がなんだか。めんぼくない。さあ、こちらでございます」

行列が進み始める、コウタもそれに続こうとする。

「そこのわっぱ」

先ほどの僧がコウタに向かってぼそっっと話しかける。

「なんです? それとわっぱじゃないです。十六になります」
「なるほど、では改めて。そこの童顔おかっぱ激カワ青年よ」
「……なんです?」
「お主は拙僧に興味を持たないの?」
「はい? なんで陰気なおじさんに興味をもたなきゃならないんですか。それにオレはそもそも人間が嫌いなんです」
「そうか。面白いな。うん、面白い。拙僧はお主に興味がでてきたなぁ」
「いや、陰気なおじさんに興味持たれても」
「名は? 名はなんと?」
「コウタ」
「コウタ。コウタか。そうか。ふふふ。コウタよ、またそのうち会うだろうなぁ。それまで、『人間』に気をつけてね」

リーン。
鈴の音とともに、その僧侶はどこかへ去っていった。
コウタは首をかしげながら僧侶を目で追ったあと、町長たちに合流した。

*

町長は家に着くと、家からコウタと貫之以外人払いをした。

「さて、鬼退治の件ですが。実はその、間に合っているんです」
「間に合っている、というと?」
「その、朝廷の使者様にこんなことを言うのは」
「よい。私は使者といっても雇われ。政治には興味がない」
「は、え、そうでございますか! いやーよかった! てっきり打ち首かと腹をくくっていたところでして! まあ簡単に言うと、この町は朝廷から独立しているんですよ」
「独立?」

晴れやかになった町長は、洗いざらい話してくれた。
鬼からの被害に悩まされていたこの町は、朝廷に何度も救援を依頼したが、なしのつぶて。
仕方なく、金で鬼退治をする「武士団」を雇ったという。

「たまたま逗留していた武士団だったのですが、非常に優秀でして。町全体を塀で囲ってくれて、その塀に鬼がいやがるシダの葉を練り込んでいるから、鬼が寄りつかないんです」
「なるほど、あの巨大な塀は、武士団が作ったのか。で、その武士団の長と話せますか?」
「いや、今はおりません。最近は遠出をされて鬼退治に行かれることが多くて。いつ戻ってこられるのやら」
「そうですか。ところで、この町は若者が少ない気がするのですが、鬼に襲われたりとか、そういったことはありませんか?」
「いやいや、武士団が来てからはそんなことはありません。むしろ若い衆はみな武士団にあこがれましてな。後をついて行ったりしています」
「……素人が、鬼退治を?」
「ああそんな、鬼退治だなんて。まねごとですよ。みな、武士団にあこがれているんでしょう」

コウタと貫之はそのまま町長の家に一泊させてもらう。
翌朝すぐ、その武士団が向かったと言う南に進むことにした。
貫之はその道中、早くいかねばとブツブツつぶやいている。
草木が高くなり、そろそろ街道が山間部に入ろうかというあたりで、日が落ちてきた。
一旦戻るか、最悪危険だが野営をしようか。
貫之と相談しているとき、コウタが異変に気づく。
瞬間、おかっぱ頭がざわっと伸びる。

「こっちだ」

コウタに促され、貫之も後に続く。
マクラは貫之の肩に乗り、フーッと戦闘態勢を続ける。
あたりはすっかり暗くなる。
木々の向こう側にわずかだが明かりが見える。
たき火をしているのだろう。
その付近でズシンという奇妙な音が聞こえてくる。
コウタは縫うように木々やツタの間を抜けていく。
そして、少し開けた原っぱにたどり着いた。
目に入ったのは、巨大な人間。
すぐにわかった。
元人間の、鬼だった。
鬼を目の前にして髪が伸びに伸びているコウタは、しかしてそのまま立ちすくんでしまう。

「コウタくん、君はやさしいからね。おそらく『まだ助かるんじゃないか』と考えているんだろう。残念だが、もう無理なんだ」
「……でも」
「やるしかないんだよコウタくん」
「……でもでも」
「そーかい、だったら何もしないでくれよ。これは身内の問題なんだ」

貫之との会話に割って入る野太い声。
青い着物にねずみ色の小袴(こばかま)で統一された男たちの集団。
その先頭にはひときわいかつい大男。
眉は太く、髪の毛はざんばら、左目が十字の傷で見えなくなっており、残った右目は力強い眼力を持っている。
一目見てわかる。
この男が、町長から聞いた武士団の団長だろう。
武士団の何人かは比較的大型な犬をは連れていた。
犬たちはコウタに対して威嚇をする。

「ちょっとまってくれ貫之さん、あれは土佐犬なのでは? 大型で獰猛といわれている、勇ましかっこいいわんこちゃんたちでは!?」

悦に至っているコウタを尻目に、武士団は取り囲む。
部下の数人がコウタに対して刀を抜こうとし、それを団長がいさめる。

「おい、そこのド変態」
「え、オレのことです?」
「そうだ。犬に囲まれてそんな顔するやつはド変態だ」
「オレは変態じゃありません。人間嫌いが行き過ぎて、うっかり動物が過剰に好きになっちゃった、悲しい男です。それと、あの鬼を退治するのは一旦待ってほしい。あれは元人間です。なんとか助けられないか模索したいんです」
「……名は?」
「コウタ。こっちは紀貫之さん。そしてその肩の上に乗っているかわいいねこちゃんがマクラさまです」
「ふむ、和歌を集めているという例のやつらか」
「どうして知っているんです?」
「まあ、情報がすべての世界だからな。隠密はお手の物だ。ワシは平将門。故あって下総国からこちらに遠征をしにきている。そちらが仕掛けてこなければ、ワシらも争うつもりはない。引いてくれないか」
「引けません。あれは人間です。殺すのはだめです」
「いいや、『元』人間だ。殺すしかない」
「他に方法があるかもしれない」
「かも、だと?」

将門はコウタの胸ぐらをぐいっとつかみ、引き寄せる。

「そんな確証もねえことで迷ってたら、あっという間に全滅だ。生きるためには! 鬼と疑うべきものは! 例え身内だろうと! すべて殺さなければならないんだよ!」
「・・・!」

コウタは捕まれた腕をとっさに手を振り払った。
将門はなぜか苦悶の表情を浮かべた。
見ると、コウタに払われた右の手首が脱臼していた。

「え、よわっ」

漏れたひとことに、将門の部下たちは一斉に口を開いた。

「お頭は! 肉体的にすこしそのおしとやかなところがあって、でもその分戦闘での指揮は的確で、日本でも右に出るものはいないと評されるほどなんだ」
「お頭は! すこしだけあたり負けすることもあるけれど、そのかわり我々全員の話を親身になってきいてくれるし、頭領としては申し分のない資質の持ち主なんだ」
「お頭は! 肉と骨の強度がほんの少しだけ弱い部分もあるけれど、頭の切れるお方で先を見通す力にすぐれており、我々を窮地から何度も救ってくれたんだ」
「もういい。やめろ」

将門の一言で部下たちはぱっと口を閉じる。
そして将門は関節が外れてぷらぷらしている右手首を上に上げる。
武士団は全部で二十人ほど。そのうち15名は抜刀をして臨戦態勢を取る。
そして残りの犬を連れた五人は、懐からなにやら見覚えのあるものを取り出す。
短冊だ。
そしてそれぞれ腕に刺すと、文字を形成していた「血」がズズっと動き、腕に吸い込まれる。
そして腕を小刀で切ると、その血を犬になめさせる。
犬はおのおの形状を変化させる。
牙が異常に発達するもの、毛が刀のようになるもの、少し液状に変化するもの。
武士たちはそのまま犬にまたがる。

「お頭、準備できました。お頭は変身しますかい?」
「いいや、おまえらだけでどうにか出来るだろう?」
「応!」

そういうと武士団は散り散りになる。
コウタはキッと将門をにらむ。
と、同じ青の着物を着た男たちが目に入る。
他の武士団とは明らかに違う集団。
まず、とにかく若い。
着物の青さもまぶしく、最近作ったかのような目新しさ。
なにより肉体がひょろひょろで、戦い慣れしていない。
貫之が最初に気づく。

「将門、と言ったか。ひとつ聞いてもいいかい?」
「ああ、なんだ? べっぴんのお姉さん」
「違う! 私は男だ! で、話を戻して。もしやそこで固まってがたがた震えている人たちは、近くの町の若者たちかい?」
「……ああ、そうだ」
「町長は、若者たちは君たち武士団をしたっている、後を付いてきていると聞いたが、その若者たちかい?」
「……したっているかはわからないが、まあそうだろうな」
「あそこで巨人になっている鬼だけど、左の小指に青い布がからまっているんだが、もしや『元』若者なんじゃないかい?」
「!」

コウタが将門にとびかかる。
将門はその衝撃で大きく後方に吹っ飛び、木々にぶつかり、左肩を脱臼させ、血を吐いた。

「よっわ! っていうかあんた、自分を慕ってくれたやつらを殺そうとしてるのか!」
「……そうだ」
「人の心はないのかよ!」
「あるに決まっている! 青の着物を着たら、誰であろうと家族だ。家族から鬼を出してしまったのなら、家族が責任を持って対処する。もしその鬼が誰かを殺めてしまったら、鬼を殺したあと、全員切腹。それが武士団だ!」

右手首と左肩が脱臼しているボロボロの将門だったが、妙な威圧感と威厳があった。
それを見てか、残りの若者たちが将門に近寄る。

「お頭、僕たちが未熟なばっかりに、申し訳ございません。鬼になったあいつも望んでいます。将門武士団の手で、楽にしてやってください」
「……わかった。やろうども! 鬼は一匹だ。魚鱗(ぎょりん)の陣でいけ!」

それを合図に、陣形が変わる。
弓を装備した武士たちを、変身した犬に乗った武士が囲むように配置する。
その陣を保ったまま、巨人の鬼に突撃する。
飛んでくる矢を巨人が振り払う隙に、犬たちが巨人の足、腕を食いちぎる。
そして体勢をくずしたところで、最後の武士が首を一刀両断した。
見事な連携だった。
コウタも貫之も、ただただ圧倒された。
一連を見届けた将門は声を荒げる。

「この戦、ワシらの勝利だ。勝ちどきをあげろ-!」
「うおぉぉ!!」

武士団が雄叫びをあげる。
若者たちも、悲しみをふりほどくかのように、大声をあげる。
将門は右の手首の脱臼を元に戻すと、取り出した白い短冊を巨人の首に刺す。
血がさかのぼり、文字を形成する。

「あしひきの 山のまにまに 離れなむ うき世の中は あるかひもなし」

将門は短冊を拾い上げ、懐にしまおうとしたその瞬間、右の手首がふたたび脱臼してぷらんぷらんになった。
コウタは自分の目を疑った。
そこにはこぶしほどの小さい「法師」が二体。
短冊の両端を二人で担いでいる。

「とらえろ!」

将門の号令で我に返った武士団は、小さな法師を捉えようとする。
が、とにかく小さい。
ちょこまかと逃げ回られ、捕まえられない。
そして二体の法師は、ある男の元にたどり着く。
その男の肩には、これまた四体の小さい法師がすでにいる。
全部で六体の小さい法師に囲まれたのは、コウタが町に入った際に声をかけられた、全身黒づくめの僧侶だった。
僧侶は小さな法師から短冊を受け取る。

「空也、その短冊は家族の形見だ。返せ」
「……そうか。だったら拙僧が弔うのがよいのでは?」
「いらねえよ。ワシらは坊主を信じない」
「やれやれ。信じるものは救われるとお釈迦様もおっしゃっているというのに」
「おい、逃げるなよ」
「戦略的撤退と言ってくれ。コウタ殿、また会おう」

空也はそう言うと、すっと森に消える。
将門は右手の脱臼を再度直すと、ぽりぽりとひげをかく。
そして、貫之とコウタを見つめる。
瞬間、コウタはこの次に起こるだろう展開を悟る。
そして、髪の毛じわりと伸び始めた。

「あー、貫之とコウタ。そういうわけでワシらは手柄を取られた訳だが、町の若者がひとり命を落としたのに手ぶらで戻るわけにいかないんだ」

将門の言葉に応じるかのように、武士団はコウタと貫之をじりじりと追い詰める。

「すまないが、和歌をひとつ譲ってくれ」

*

夜が明けた。
木々の隙間から光が差し、コウタと貫之を照らす。
傷だらけでボロボロだ。
貫之はしくしく泣いており、マクラが傷をペロペロなめている。
コウタは大の字になりながら天を仰ぐ。

「なあ貫之さん。さっき奪われた和歌って、どんなやつなんです?」
「えっと、コウタ君が最初に討ち取った、イノシシ型の鬼から出てきた和歌」
「奪われてもいいやつですか?」
「だめにきまってるじゃん! 戦術的にかなり応用の利く、希少なやつだもん!」
「そうですか」
「……和歌は力と恵みをもたらす。狙っているのは朝廷だけじゃないんだ。武力で村や町を守り力をつけている武士団。山道に詳しく、輸送で力をつけている僧兵。さっきの空也という法師がいい例だ」
「将門に空也。覚えました。桃源郷に行き着くには、あいつらをぼこぼこにして、なおかつ鬼退治もしなければならないってことですね」
「できるかい?」
「桃源郷のためだ。やりますよ」
「そうか。じゃあまあ、わたしたちはもっと強くならないとな」
「ええ。でも、今日は眠いから明日からで」

コウタはごろんと横になり、貫之に背中を向ける。
ばれないように涙を流した。

続く

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この記事を書いた人

・アラフォー世代向け決めつけ考察WEBマガジン「ドクダンヘンケングン」編集長
・IT企業の中間管理職
・ふたりの小学男児の父
・ギャル好き

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