決めつけ検証WEBマガジン「ドクダンヘンケングン」編集長の春眠亭あくびです。
自分と同じ性癖の人にだけ向けて書いた小説です。誰かに刺されば嬉しいです。
なお、この小説は全20話予定で、毎週水曜更新予定です。ぜひtwitterをフォローして、リアタイで楽しんでください。
それでは第5話、どうぞ。
※初めての方は1話からどうぞ↓
ドクダンヘンケングン


和風能力系バトルもので、歴史上の人物が出てきて、ヒロインが褐色貧乳美少女の小説は最強に決まっている …
自分の性癖ドンズバのシチュエーションだけで構成された小説を書いたら、それはもう最強に面白いストーリーになるに決まっている! という決めつけを検証します。 第1話は…
あくる朝。 鬼の下半身を見て、村長は大いに喜んだ。 村中から感謝をされて、「当然のことですから」といなす紀友則。 そして、約束通り謝礼を受け取り、分け前を貫之に渡す。 友則は途中までと言いながら、コウタ達に同行した。 道中、小川を見つけた一行はそこで休憩をすることにした。 岩に腰掛ける貫之。そしてさりげなくその隣に座る友則。 女と男が並んでいる。 ただそれだけなのに、どうしてこんなにも、心が。 コウタは視線を外す。 「どうしちゃったんだ、俺」 そう小さく独り言をしながら、小川の水で顔を洗う。 手ぬぐいで顔を拭い、貫之たちから少し離れた岩に腰をかける。 ふと山桜が視界に入った。 コウタは何気なくその山桜をぼんやり見つめる。 岩の間に根を張るその桜に、力強さを感じる。 「いい桜だ。桃源郷にはあのような素晴らしい桜が一年中咲いているそうだ」 隣で声をかけられる。 あまりにそれが自然で、コウタは最初、何が起こったかわからなかった。 そして異常事態に気づく。 コウタの隣に、見知らぬ男が座っているのである。 三尺以内に入られると嘔吐をする体質のコウタのとなりに、何の前触れもなく座ったその男を見て、コウタは同性なのに見惚れてしまった。 髪は少し茶がかっていてサラサラ、まつげは長く、鼻筋は通っている。目元は切れ長、頬は少しこけている。桜色の着物に薄茶色の袴をはき、まるで桜の木のような出で立ちだった。 コウタは驚くほどの美貌に圧倒され、その姿をしばらく見つめていたが、視界が遮られて我に返る。 さえぎったのは、自身の髪だった。 異常に伸びたその髪に、視界が遮られるまで気づかなかった。 その事実に、コウタは全身の毛穴から脂汗が一斉に流れ出る。 「あれ、もうお迎えが来てしまった」 「まったく。お戯れがすぎますよ、業平様。さ、行きましょう」 その美しい男の目の前に、女は急に現れた。 自分の危機察知範囲を二度もくぐり抜けられて、コウタは完全に混乱していた。 業平と呼ばれた男は、視線を桜から貫之に移す。 「じゃあね、おかっぱの君。そこの素敵な女性をしっかりつなぎ止めておかないとダメだよ。でないと、私が奪ってしまいすよ」 その声とともに、友則が奇声を上げながら和歌の力を放つ。 ついでガタガタと震えながら貫之もマクラを矢にして放つ。 その美しい男は、次の瞬間にはそこには居なかった。 和歌の発現により衝撃波が付近に響き渡る。 その衝撃で、山桜から薄紅色の花びらが大量に舞い散った。 「コウタ君、大丈夫か!?」 「怪我はないかい? コウタちゃん!」 ふたりから話しかけられ、コウタは意識を取り戻す。 何も出来なかったふがいなさで、心が潰れそうになるのを必死でごまかす。 「…貫之さん、あれは?」 「おそらく、鬼だ。それも、超弩級の」 「言葉を話していたけど」 「ああ。あれが噂に聞く、六歌仙なのだろう。鬼でありながら人間の知能を持つ、神に近い存在。それが六歌仙だ」 「六歌仙。あの女の方は? 仲間なんですか?」 「おそらく、そうだろう。通常鬼は群れることはないんだが。あそこまで知能が高いと、仲間を作ることもあるのかもしれない」 小刻みに震えながら、貫之はコウタの質問に答える。 そうすることで、精神を安定させようとしていた。 友則は、大麻に火をつけようとして、震えで付けられずにいた。 大量に散った山桜の花びらが、小川を薄紅色に染めた。 * その夜。 コウタ達は小さな村で宿を借りた。 六歌仙と遭遇した場所からすこしでも離れようと必死に走り、たまたま見つけた村で世話になることにした。 質素な食事を終え、友則が貫之に話を切り出す。 「貫之ちゃん、やっぱり一緒に旅をしないか?」 「……」 「昼間のような、六歌仙がいつ襲ってくるかわからない。戦力は多い方がいい」 「……」 「それに僕がいれば、路銀もしっかり稼げる。戦力にもなるし、一緒に旅をした方が効率的だとおもわないかい?」 「…しかし、その、和歌はどうする? 選者がふたりいたら、和歌の取り合いになってしまう。お前と、その、ケンカしたくない」 友則はきょとんとすると、ケタケタと笑い始めた。 「貫之ちゃんは優しいね。大丈夫、僕は和歌に興味ないからね。貫之ちゃんが全部持っているといい」 「はあ? お前選者だろう? なんで興味ないんだよ!」 「僕はね、貫之ちゃん。古今和歌集を編纂したという実績さえあればそれでいいんだ。それだけで、教室を開いたり大名の家庭教師をしたり、適当に働いて一生遊んで暮らせるからね。まあ、僕にしか扱えないような和歌があれば、捨てるのはもったいないし、それはもらっておくよ」 「む、それはかなり助かるが」 「じゃあそれで決まり!」 友則は貫之を抱きしめる。 それをみて、コウタは拳を強く握る。 「私は、まあそれでいいが。この旅はコウタ君と共にしている。彼の意見も聞きたい。コウタくん、君もそれでいいかい?」 そう問われて、コウタは笑顔をつくる。 「貫之さんがそれでいいなら、俺は大賛成です。というか、友則さんがいれば戦力としては十分だし、俺はこのまま故郷に戻りますよ。旦那さまも心配だし」 「…コウタくん、それはどういうことだい?」 「いやだから、この旅は古今和歌集編纂が目的だから、友則さんがいれば十分って言うか」 「…コウタくん、昼間の戦いでなにか引け目を感じたのかい? そんなの気にすることではない。目の前に六歌仙が急に現れたんだ。動けない方が普通だ」 「でも貫之さんも友則さんも動けた!」 「それは、我々がたまたま距離を取っていたからだ。ただの偶然だ」 「偶然だとしても、俺はあのとき死んでいた! 役立たずなんです! 友則さんがいればこの旅は問題無い、だから俺は不要なんです!」 「それは違う。友則は言うほど期待出来ない」 「そうだよコウタちゃん、僕はほんとうにダメなクスリ中毒者で、コウタちゃんがいないとダメだよ」 「とにかく、俺は貫之さんにとって不要なんです! だから旅を降りるって言ってるんです!」 貫之は、コウタをジッと見つめる。 「コウタくん、じゃあ私が不要だと言ったら、君は旅をやめるのかい?」 「そ、そう言ってます。俺は不要なんです。役立たずなんです。貫之さんにふさわしくないんです。友則さんの方が、仲よさそうだし、楽しそうだし、俺なんかと一緒に居ても意味ないし、だから俺は…」 「じゃあ君は!」 貫之は、コウタをまっすぐ見つめ、よく通る声でその言い訳を遮る。 「じゃあ君は! 君自身は! どうしたいんだい?」 そう問われ、コウタは目を見開く。 自信をなくしていた。 ここ最近負けてばかりだ。 自暴自棄になっていた。 それで、貫之に当たってしまった。 ひどい男だ。 これでは、自分の嫌いな「人間」丸出しだ。 コウタは目元の潤みを袖で拭う。 「俺は」 コウタは、一言ずつ、かみしめるように、発する。 「俺は、俺の夢のため」 頭に思い浮かぶのは、幼い時の記憶。 初めての友人。 その友人との約束。 「俺は、桃源郷を見つけるという夢のため、旅をしたい。させてほしい、です」 貫之と友則は顔を見合わせ、表情を崩す。 「もちろんだコウタくん。よろしく頼む」 「こちらこそよろしくね、コウタちゃん」 「…勘違いしないでください。俺は俺のために、あなたたちを利用するだけですから」 「ああ、コウタくん、それでいいよ。それがいい」 貫之が泣きながらコウタに歩み寄る。 コウタはゲロを吐きながら、一緒に泣く。 月は雲から顔を出し、少し開けた窓から薄い光を注いだ。 * 朝。 シャッ、シャッという音でコウタは目を覚ました。 広間に行くと、貫之がいた。 「おはよう、貫之さん」 「おはよう、コウタ君」 貫之は少し顔を上げ、手を止める。 「それは?」 「ああ、初めて見るかい? これは硯(すずり)と言ってね。これで墨をすって、短冊に和歌を書くんだ」 「なるほど。見てていいですか?」 「ああ。でも、おもしろいものじゃないよ?」 「いいんです。なんか、いい匂いで」 「そうかい?」 コウタは貫之の手元をぼんやりと眺めた。 たくさん負けた。 半ば強引に連れてこられた世界だけど。 それでも自分は特別だと思い込んでいた。 世の中うまくいかないことばかりだ。 でも。 それでも俺は俺のために。 友達との、チハヤとの約束のために。 コウタは貫之の横顔に、チハヤを重ねる。 そして、決意を新たにした。 「貫之さん」 「なんだい?」 「俺、もっと強くなりたいです」 「そうだね。でも、少し違うよ」 「?」 「俺『たち」だろう? 私も一緒に強くならないとならない。だって私たちは、その、い、一心同体だろ?」 「…貫之さん、ありがたいけど、やっぱり友則さんの方がお似合いというか」 「コウタくん、誤解があるようだから言っておくけども! その、友則とは昔から一緒に遊んだりした中で、兄みたいな感じなんだ。身内で、その、まあ、なんだ、そういうことを言われるのは気持ち悪いというか、その、私は、コウタくんの方が、その」 三白眼がキョロキョロと動き、褐色の肌が赤く染まる。 その様子をみて、コウタはケタケタと笑った。 「さて、貫之さん。行こうか」 「なんだ、その笑いは! どういうことだ!」 身支度を終え、三人と一匹は旅立つ。 コウタを先頭に、貫之、友則がそれに続く。 街道とは名ばかりの、草だらけの道。 空を見上げれば雲一つ無い快晴。 風にのって、綿毛がコウタ達を包み込む。 温かくもあり、すこしむずかゆくも感じた。
続く