決めつけ検証WEBマガジン「ドクダンヘンケングン」編集長の春眠亭あくびです。
自分と同じ性癖の人にだけ向けて書いた小説です。誰かに刺されば嬉しいです。
なお、この小説は全20話予定で、毎週水曜更新予定です。ぜひtwitterをフォローして、リアタイで楽しんでください。
それでは第4話、どうぞ。
※初めての方は1話からどうぞ↓
ドクダンヘンケングン


和風能力系バトルもので、歴史上の人物が出てきて、ヒロインが褐色貧乳美少女の小説は最強に決まっている …
自分の性癖ドンズバのシチュエーションだけで構成された小説を書いたら、それはもう最強に面白いストーリーになるに決まっている! という決めつけを検証します。 第1話は…
コウタたちは町に戻らないことにした。 今はまだ、将門たちに太刀打ち出来ない。 余計な争いで体力を削るのは得策では無いと考えたからだ。 街道にでると、改めて元々進んでいた東に向かうことにした。 街道とは名ばかりで、ほとんど整備されておらず、草は生い茂り、枯れ葉で道は隠れている。 貫之はその光景にため息を漏らす。 「昔はもっと歩きやすかったんだが。全く先に進めないな」 「貫之さんはこの道を通ったことがあるんですか?」 「もちろん。この街道は京から伊勢へ向かう際に使う街道なんだ」 「伊勢?」 「ここから更に東へ数里いくとあるんだよ。それはもう美しい国でね。海と山、それぞれの景色を堪能できるんだ」 「海? ということは渡り鳥? 渡り鳥にあえるんですか? というか山もある!? もはやそこが桃源郷では!?」 「いや、興奮するのは分かるんだが、今はその、なんだ、あまり行きたくないんだ」 「どうして!?」 コウタの圧に貫之はたじろぐ。 「それはまあ、なんというか、苦手な同僚がいるんだが、今その人が伊勢の守護者になっていてね。まあ守護者っていうのはつまりは一番偉い人のことで」 「そんなの、そいつと会わなければいいじゃないですか」 「そういうわけにはいかないんだよ。私は朝廷からの使者なわけだから、会わないとわけにはいかないんだ」 「ふーん。じゃあ残念で残念で残念だけど、伊勢は諦めるんですか?」 「うーん、そうしたいのはやまやまなんだけど。どうにも気になることがあってね。気乗りはしないが、立ち寄ろうかなと。それに」 「それに?」 「あいつが伊勢を目指すって前に聞いたから、まあ使えそうなら仲間にしようかなと。まあ使えそうならなんだけど」 「貫之さんの知り合い?」 「ああ。腐れ縁というか、なんというか。実力は確かで、おそらく武士団ともまともに戦える」 「じゃあ絶対に仲間にしましょう」 「だけど会いたくないんだよね」 「……貫之さんの知り合い、会いたくない人ばかりじゃないですか」 「なっ! た、たまたまだもん!」 貫之は頬を膨らませて怒る。 控えめに言って、かわいい。 女であることを隠す気があるのか。 コウタは心の中でそうツッコむ。 * しばらく行くと村があった。 背の高い板塀で囲まれた小さな村。 その周辺に草木はなく、固く荒れた土が広がる。 鬼は無尽蔵に生き物を食う。 草木は虫や動物が住み着く。それらを食うために鬼がやってきてしまう。 だから、村や町は徹底的に生き物や植物を排除する。 結果、この世の中は深刻な食糧難だ。 門を開けてもらって村に入る。 この村にも活気はない。 皆痩せ細って、日々生きるのに精一杯といった感じだ。 コウタと貫之は村長のところに向かう。 と、不思議な光景を目にする。 白髭を蓄え、身なりのきれいな、いかにもそれらしき人物が道ばたで土下座をしている。 羽織には背中に大きく「村長」と書いてあるので、おそらく村長なんだろう。 「どうか! どうか! 村を救ってくだされ!」 「いや、ボクはそういうのじゃなくてですねー」 「何をおっしゃいます! 朝廷からの使者様ではござらんか! 聞くところによると使者様はみな面妖な術をおつかいになられるとか」 「いやいや、そんなのはもっと位の高い人でして、私なんかは下っ端ですからそういったも術は不得意というか、路銀を払うので宿を貸していただけないかとそういう話でして」 「下っ端などとはとんでもない! そのお召し物の生地が! 生地がそこはかとなく良いものだとワシはきづいておりますぞ!」 村長の土下座の先には、青年が立っていた。 体型はすらりとしていて高身長、白い肌に細い目、やや色素の抜けた髪は男性にしては少し長めで、左からガバッと分けて額を出している。 紫の着物を着ており、その表面は光を反射するほどなめらか。 「村長」の服を着ている村長の言うとおり、良い生地を使っているのだろう。 その全身から漂う清潔感から、コウタですら、この青年が高貴な家柄であることを察した。 細い目をつり上げ、口元がヒクヒクしている青年は、コウタたちに気づき目線をそちらにやる。 すぐに目は見開き、表情が明るくなる。 同時に後ろにいた貫之から「げっ」という声が聞こえる。 「コウタくん、急いでこの場から逃げよう」 「え? どうして?」 「いいから早く」 貫之がコウタの腕を取り、元来た道を戻ろうした瞬間、後ろから青年が声をかける。 「あそこにいる者こそ、私の上司である紀貫之です! 彼らがこの村の危機を救ってくれるでしょう!」 貫之の歩がピタリと止まる。 ギギギと後ろを振り返る貫之。 すでに村長のキラキラなまなざしが貫之に突き刺さっている。 貫之は逃げることを諦めて、ずんずんとその青年のそばに行く。 「とーもーのーりー!」 「いやあ、助かりました。紀貫之様」 「白々しい! お前はやっかい事があるとすぐそうやって押しつける!」 「いいじゃないですか。その代わりこの路銀、あげますから。宿代だと思って。どうせ路銀がなくなってきたんでしょ? その子を身請けしたからかな?」 「くっ」 貫之は忌々しそうに舌打ちすると、路銀を奪う。 そしてコウタに気づき声をかける。 「あー、こいつは紀友則。同じ古今和歌集の選者で、私の従兄弟だ」 * 紀友則はあれよあれよと村長と話をつけてしまい、コウタと貫之はなすがまま身を預けることとなった。 気がついたときには宿と質素な食事が手に入っていた。 「これがあいつの常套手段なんだ。外面が良すぎるせいか、この手の交渉がまあ得意でな。気づいたら巻き込まれている」 紀貫之は智則をにらみつける。 智則はお構いなしに村長と話を続ける。 「ということで、今晩にはその鬼を退治に向かおうと思います。鬼が出る時間まで仮眠を取ります。時間になったら戸を叩いて起こしてもらえますか?」 「わかりました。さすがは朝廷の使者殿、流れるような段取りでございます」 「お褒めにあずかり恐縮です。それではあとは私の上司が鬼を退治しますので、ご安心いただき、今夜はぐっすりとお眠りください」 村長は智則の言葉にうんうんと何度もうなずき、案内した宿を後にした。 智則はそれを見届けると、貫之の方を振り返る。 「ということで貫之ちゃん、対価は十分渡したよね?」 「……まあ、こうして宿にありつけたし、謝礼も半分もらえるという約束だからな」 「ということで、ボクはいつものとおり部屋にこもるから、あとは見張りをよろしくね。決して中を見ないように」 「他のやつに見せないように、だろ。私には何度もその痴態をみせている」 「いや、貫之に言ってるんじゃなくて、そこの坊やに言ってるんだよ」 指をさされ、コウタは少しカチンときながら返す。 「オレのことです?」 「そう。名前は?」 「コウタ」 「コウタちゃん、ボクは君たちに対価を払った。その代わりボクの好きなことをさせてほしい、ただそれは人に見られたくないことなんだ。だから決してボクの部屋をのぞかないでくれ」 智則は、反論の余地がないようきっぱりと言い切った。 コウタは智則の底知れなさに少し警戒を強めた。 人との接し方がうまく、つきあいやすいのかと思えば、どこかでしっかり線を引く。 柔和と拒絶、そのどちらも共存する不思議さが、得体の知れ無さを誘う。 「智則、コウタ君は今、私とともに旅をしている。警戒することはない。信頼に足る男だ。それに、私が、その、女だということも、知っている」 「「いやそれは誰でも知ってるから」」 「そ、そんなことはないだろう!」 三白眼の白がより強調され、頬が赤く染まる。 「そうか。貫之ちゃんがそんなに信頼してるんであれば、問題ないだろう。のぞくかどうかは君に任せる。コウタちゃん、よろしくね」 「……のぞかないよ。人間は嫌いだ。三尺以上近づくと文字通り吐き気をもよおす。体質なんだ」 「ええー、そうなのぉ。残念だなぁ。貫之ちゃんとはイチャイチャしてるのにぃ」 「「してない!」」 二人からの同時ツッコミに、貫之はケタケタと笑う。 「じゃあボクはそういうことで、隣の部屋にいるからね。人払いはしたけど、万が一だれか来ちゃったら、よろしくね」 「わかった」 貫之がそう言うと、智則は奥の部屋へ入っていった。 コウタと貫之はそのまま出された食事に手をつける。 にぎり飯と漬け物。 質素だが、鬼がはびこるようになってからはごちそうだ。 すべて平らげ、そわそわと何度もお茶をすするコウタに、貫之が話しかける。 「智則が気になるかい?」 「……いや、特に」 「智則はああ言ったが、おそらく君にはのぞいてほしいんじゃないかな」 「なぜ?」 「それはまぁ、試しているのかもね。君という人間が、信頼に足るのかどうか」 「のぞくと信頼に足るのか?」 「他人の秘密を共有する覚悟があるか、ということさ」 貫之に促され、コウタはそっと智則の部屋を覗く。 まず気になったのはその匂いだ。 むせかえるような甘い匂い。 そしてその先には、煙を吸って上目のままよだれを垂らす智則がいた。 ひどい顔だった。 貫之が解説してくれる。 「クスリだよ。たしか大麻とか言ってね。麻の葉を乾燥させたものだ。異国では流行っているらしい。あれを吸うと、どうかしてしまうのさ」 「あへぇ」 「ほら、だらしない顔だろう? それにだいたいあへぇっていうんだ。だから私はこの顔をアヘ顔とよんでいる」 「あへぇ」 何を言ってもあへあへしか言わない智則を、しかしてコウタは全く嫌悪感を抱かなかった。 昼間見た素晴らしい交渉力。外面の良さ。それらは「努力」の上に成り立っているのだと、なんとなく感じたからだ。 努力して、ああ振る舞っている。だから、息抜きが必要なのだろう。 だから、あへぇなのだ。 コウタはそっと戸を閉めた。 そして、戸の前にどかりと座る。戸に背を持たれながら、そのまま居眠りの体制に入った。 貫之は少し笑うと、布団を持ってきてコウタにかけてくれた。 戸の内側で、あへあへという声がしばらく聞こえた。 * 夜も深くなった頃、村長が宿の扉を叩く。 「そろそろ、鬼がでる時間です。どうか、よろしくお願いします」 寝間着姿の村長は、やはり後ろに大きく「村長」と書かれた服を着ている。 「ええ、わかりました。お任せください」 すっかり外面が復活した智則は、光るような笑顔で村長に応えた。 コウタと貫之、そして智則の三人は、村長に教えてもらった鬼の出現場所に向かう。 最初いかないとごねた智則だったが、貫之の剣幕に気圧されて、渋々同行を承諾した。 「ここかな」 智則が指さしたのは、深く削れた山の岩肌。その先には家一軒入るかという、大きな洞穴があった。 村長曰く、あの洞穴に鬼が住み着いているとのこと。 洞穴の中は鬼の独壇場と考え、出てくるのを待つことにした。 貫之はいつも通り銀杏の葉を巻いた紙煙草を口にくわえ、火をつける。 けほけほとかわいらしくむせる。 それに呼応するように、智則も紙煙草を口にくわえた。 それを見るや、貫之が取り上げてしまう。 「これクスリだろ! 鬼が出てきたらどうするんだ!」 「大丈夫なんだよ貫之ちゃん。これはもうほんと軽いやつ」 「軽くてもダメだ」 「頼むよぉ。ほんとボク、情けないんだけど、緊張で、もう」 震える手でクスリを取り返そうとする智則。 それを見て、無言で返す貫之。 智則は嬉しそうにクスリに火をつけると、直接その煙を吸った。 美味そうにくゆらす智則。 紙煙草を持つ手はまだ震えている。 それを見て、コウタは智則に話しかける。 「大丈夫。オレは特異体質で、鬼が近づくと髪が伸びてわかるんです。動きがあったらすぐ伝えます。だから安心して…」 「あへぇ」 「あ、ダメだこいつ」 貫之はすぐにクスリを取り上げ、智則の復活を待つ。 半刻過ぎ、智則がまともに話せるようになったころ、コウタの髪がズワッと伸びる。 洞穴に目を向ける。 何か大きなものが羽ばたく音が聞こえる。 そして、それが、突然飛び出した。 上空を旋回し、葉のない木々に飛び移りながら、こちらの様子をうかがっている。 捕食しようとしているのだ。 「鬼のお出ましだね。コウタくん、あれの元は何だと思う?」 「フクロウ、ですかね。でもあの羽は鳥のそれじゃない。そうだな、コウモリに似ている気がします」 「ふむ、さすが動物好きだね。フクロウが元で、蟲がコウモリだろう」 「夜中だから姿が捕捉できない。厄介ですね」 「そうだね。マクラ、君はどうだい?」 ちゃっかり貫之の肩にのっている猫のマクラは、鬼の姿を目で追ってはいる。 が、時折見失うらしく、キョロキョロする仕草が多い。 「夜目の利くマクラでも少し厳しいかもしれない。弓矢の和歌で狙い撃ちするのは厳しいか」 「貫之さん、だとしたら手詰まりじゃないですか?」 「ああ。私たちだけだったら危うかったね。でも今は、こういうちょこまかと動く敵にピッタリの攻撃手段を持つ人間がいる」 貫之が振り返る。 視線の先には、クスリから徐々に意識を取り戻し始めた智則がいた。 「え、ボク?」 「そう。お前」 「ええー。貫之ちゃんがなとかしなよ-」 「お前がやった方が早いだろう。それに、これを見越してついてきたんだろう?」 「むー。まあいいや。じゃあやるか」 貫之はその言葉を確認すると智則の右横にピタッと貼り付く。 貫之と智則の肌と肌が密着する。 コウタはそれを目で追う。 そしてなぜか、ドクンと鼓動が揺れた。 自分でもその感情がなんなのかわからず呆然としていると、貫之に促される。 「コウタくんもこっちへ。智則の和歌にまきこまれてしまう」 「…え? この人、和歌使えるの?」 「智則を何だと思ってたんだ」 「クスリ中毒者」 「まあそうなんだが。とにかく近くへ」 「いや近くに行くとゲロが」 「死ぬよりマシだ。来なさい」 「ちょっとおしゃべりはそれまでにしてくれるかな」 智則の緊迫感ある声にハッとさせられ、コウタは観念して智則の側へ。 智則はそのまま立ち上がり、懐から和歌を取り出す。 コウタは貫之を習って智則の足下にしゃがみ、ゲロを吐きながら身を寄せる。 見上げると、智則は懐から和歌の短冊を取り出す。 流れるように左腕をまくり、内側の手首に短冊を刺す。 途端に和歌の文字はどろっとした血液に変わり、智則に流れ込む。 「むばたまの 闇のうつつは さだかなる 夢にいくらも まさらざりけり」 智則は、ゆっくりと、かみしめるように、その歌を詠む。 貫之と似ているなと、コウタは直感的に思った。 この人は、本質的に和歌が好きなんだと感じた。 そして、かなりの量の和歌の血を摂取し、和歌の文字がほとんど消えかかったころ、ようやく智則は短冊を手から離した。 貫之は本当に少しだけ血を摂取するのに対し、智則はかなりの量を摂取した。 それは貫之いわく、「耐性があるから」なのだそうだ。 血を大量に取り込めば、それだけ和歌の力を使える。 反面、血の取り込みすぎによって、死や鬼化など、様々な弊害があると聞いた。 智則は明らかに、貫之よりも耐性があった。 あれだけの血を摂取しても、苦しそうなそぶりは一切無い。 そして智則はそのまま片手を天に掲げ、コウモリ型の鬼に狙いを定める。 鬼も何かを警戒して上空を旋回しているようだったが、闇に乗じて一気に襲いかかってきた。 それを見計らって、智則は上げた手を下に振り下ろした。 瞬間、鬼の上半身がきれいになくなった。 下半身から血しぶきが打ち上がる。 「…は?」 一瞬の出来事だった。 コウタは思わず声を上げる。 「え? なくなった? 鬼の体が?」 「そうだ、コウタくん。これが紀友則の力だ」 「どういうことです?」 「和歌はね、主に2種類に分けられる。自然の理に『沿っている』ものと『沿っていない』ものだ。私が使っている弓矢の和歌、あれは自分の体を変質させ、弓や矢にしている。こちらは『沿っている』ものになる」 「いや、自分の体を弓にしているって、十分自然の理から外れているとおもいますけど」 「まあそうなんだけどね。でも、大きな木材で木を作れば、一応再現は出来るだろう? でも『沿っていない』ものは、明らかに違う。どんなに金と労力をつかっても実現しえないものを実現するんだ」 「智則の和歌は、『沿っていない』方だと?」 「そうだ」 貫之は智則の方を見やる。 和歌の血を短冊に戻し終え、いそいそとクスリを取り出していた。 「あいつが使ったのは『闇に空間の一部を食べさせる』という能力。これはどんなに逆立ちしても実現できない」 「なんですかそれ、最強じゃないですか」 「そう、最強なんだ。だが扱いにくい。コウタくん、闇に空間の一部を食べさせたことはあるかい?」 「あるわけないでしょ」 「そう。やったことがないから通常扱えないんだ。非常に繊細な感覚と高度な技術が求められるからね」 「なるほど」 「この和歌が誰かに盗まれても問題はない。なぜなら、この和歌を扱えるのは、智則ただ一人なのだから。つまりは、天才、ということなんだ」 貫之の目線の先には、早速クスリを始め、煙の中あへあへ言っている半目の優男をがいた。 「でもまあ、だからこそ、あいつはあいつで、いろいろ大変なんだよ」 貫之のその優しい言葉に、そのやさしい視線に。 コウタはまた鼓動が早くなるのを感じた。 同時に、モヤモヤと、グネグネと、心が絡まっていく感覚を覚える。 月は雲に隠れ、闇が深くなった。
続く