連載:和風能力系バトルもので、歴史上の人物が出てきて、ヒロインが褐色貧乳美少女の小説は最強に決まっている 第1話「出会い」

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決めつけ検証WEBマガジン「ドクダンヘンケングン」編集長の春眠亭あくびです。

ボクはマンガや小説が大好きでして、特に褐色貧乳スレンダー系ヒロインがコンプレックスを抱えながらも主人公にかわいいと言われて照れまくるストーリーが大好物です。

でも、世の中にはそんなに褐色貧乳スレンダーヒロインがいません。

なので、自分で書きました

ついでなので、ボクの好きなエッセンスを詰め込みまくりました。

ボクと同じ性癖の人に刺されば嬉しいです。

なお、この小説は全20話予定で、毎週水曜更新予定です。ぜひtwitterをフォローして、リアタイで楽しんでください。

それでは第1話、どうぞ。


「おじさん、足止まってますよ! 早く早く!」
「ま、まっておくれ、コウタくん!」

甲高い声はこだませず、うっそうとした木々に食われる。
空は快晴。にもかかわらず日差しがとおらない山奥。
低木とツタでおおわれた道なき道を、コウタとおじさんは全速力で走り続ける。

「はひー、はひー、はひー、げふぉっ! がふぉっ!」
「おじさん、追いつかれますって!」
「はひー、わ、わかっておるが、げふ、だって、だって、だってなんじゃもん」
「じゃもん、じゃなくて!」

おじさんは汗だく。服は邪魔だと脱ぎ捨て、上半身裸、下は茶色の小袴(こばかま)という出で立ち。
その後ろで走るコウタも額の汗を頻繁に拭っていたが、これさすがにたまらないと、袖をまくり、走りながらそれをタスキで止める。
白く細い腕で、腰まであろうかという長髪をかき上げる。
上は赤の着物に、下は黒の小袴(こばかま)。
手には長めの棒を持ち、おじさんの背中に押しつけている。

「それ! やめてくれんか、小突くやつ、はひー」
「無理です。オレは人間が近づくと吐き気がするほどの人間嫌いなので、3尺以上近づくことができません。なので、棒でつつきます」
「そ、そんなことを、よく、も、まあ、そんなカワイイ顔でいえるもんじゃもん」
「うるさいですよ」

コウタはコツンとおじさんを棒でつつく。
カワイイ顔、というのはよく言われる。十六歳だがどうやら童顔のようで、黒目がち大きな目と背の小ささが、幼さに拍車を掛けているのだと自覚している。
別にどう思われようと関係ない。
他の人間と慣れ合う気はないのだから。
おじさんは走りながらだんだん腰が下がってくる。
後ろから木をなぎ倒す音が近づく。
重量級生物特有の、ドスンドスンという地鳴りのような足音が響いてくる。
コウタはおじさんの腰帯に棒を入れ、グイッと引っ張り、無理矢理姿勢を正す。

「ほら! しっかり立ってください! 動いて!!」
「ひー、ひー、わし、わし、無事帰れたら、娘の嫁入り道具を、はひー、かってあげるよていなんじゃもん!」
「ああそうですか! いいから走る!」
「そ、それからー、かみさんとずっと不仲だったんじゃけどこの前仲直りできてぇ、はひー、はひー、無事帰れたら酒盛りでもしようと、はひー、やくそくしたんじゃもん!」
「……」
「それからー、はひー、義理の母親とー」
「もうやめて! なぜかはわからないけど、すごく不吉なこと言ってる感じするので!」

そう言った瞬間、コウタの棒の先端からおじさんの感触が消えた。
おじさんがコケはじめたのだ。
と同時に、コウタは足の回転数を上げて、おじさんに腰紐をつかむ。すんでの所でコケるのを阻止する。
「あ、ありがとうじゃもん」
「うっぷ、い、いえ。それより早く立ち上がって自分で走って」
「コウタくん、なんていい子なんじゃもん! わしがコケないように身を挺してかばってくれるなんて」
「違います」

コウタはおじさんの足下に目線をやる。
そこには小さな卵が落ちていた。上からはカアカアとカラスの鳴き声が聞こえる。おそらく、この地鳴りによって卵が巣から落ちたのだろう。

「オレはカラスきゅんの卵をあんたから守っただけです」
「カラスきゅん」
「いいから、とにかく足を動かす!」
「は、はひー」

おじさんは再び走り始める。が、かなり速度が落ちている。

「おじさんはやく走って! 追いつかれる! 死にますよ!」
「はあ、はあ、そ、それは、そうだけど! だって、足が、うごかない、んじゃもん!」
「おじさん、あなたは鬼に食べられないように俺を雇いました。だからオレはあなたを絶対に鬼から逃がします。でもおじさんに生きる気がなければ話は別です。オレはおじさんを置いて先に逃げます」
「しょ、しょんなぁ」

軽口を叩きながらも、地鳴りは確実に近づいてくる。
逃げ切れるのか。
コウタは焦る気持ちを落ち着けようと、深呼吸をする。

「ああもう、髪がジャマだ」

コウタは独り言をいうと、腰まで伸びた髪の毛をわさっとかき上げ、脇に刺した小刀で髪の毛を切る。
慣れた手つきですぐにおかっぱ頭ができあがる。

「ひー、ひー、そ、それが、稀血(まれち)ってやつなんじゃね! 鬼が近づくと、髪がのびるってやつ」
「無駄口をたたかないで」

速度が落ちたおじさんにコウタは必死の形相でどなりつける。
先ほど首元まで切ったはずの髪は、もう胸元近くまで伸びていた。
とにかく銀杏の木、もしくはシダの葉だ。
鬼が嫌う二つの植物。
これが見つかれば助かる可能性がぐんと上がる。
銀杏はこんな森にはまずないだろう。
であればシダ。
コウタは背後にせまるムカデ型の鬼に気をやりつつ、あたりを探す。
かろうじて差し込む日差しに目をこらし、あの特徴的なギザギザの葉を探す。
シダを見つけたら即座に枝をちぎり、おじさんと一緒に葉で体を隠す。
鼻の利かない鬼であれば気づかず食われることもあるそうだが、大体はその苦手な臭いにおののき、退散する。
追ってくるイノシシ型はおそらく鼻が利くだろうから、シダさえ見つけられればなんとかなるだろう。
そんなことを考えるコウタを、「ゴン」という強い音が現実に引き戻す。
おじさんがまたコケていた。
コウタは、自分の血の気が一気に引いていくのがわかった。
黒く大きな影が、視認できる位置まで近づいていた。
周りを見渡す。
横は緩やかな斜面。
シダらしき植物は見当たらない。
仕方ない。
コウタはおじさんに近づき、抱きかかえると、そのまま斜面に放り投げる。

「え、え、なんで? っていうかすごい力持ちじゃもん」
「手荒でごめんなさい。そこで隠れててください」
「は? え? うわぁぁぁあ!」

おじさんは宙を舞い、鈍いうめき声をあげて落下する。
おじさんが斜面の途中で止まったのを確認すると、安心したのかコウタは盛大に吐いた。
人間に近づくと嘔吐してしまうのは、小さいときに友人を失って以来のやっかいなクセだ。
イノシシ型の鬼はおじさんには見向きもせず、コウタを視界に捕らえておってくる。
よし。これでおじさんは大丈夫だろう。
コウタはおじさんが転がっていった斜面とは逆方向に走り出す。

ぜえ、ぜえ、ぜえ

おじさんをなんとしても逃がす。
その緊張が解け、コウタは一気に疲労に襲われる。
目の前がチカチカして、息が思うようにできない。
意識がもうろうとする中、コウタは特徴的な模様を見つける。
ギザギザが放射状にいくつも伸びている。
シダの葉だ。
前方のヤブの向こうで確かに見えた。
コウタは肩で息をしながら両の腕で顔をかばいながらヤブの中に突っ込む。
無数の傷から血を流し、それでも走ることを止めないコウタ。
シダの葉をつかむ。
ことが出来ず、天を仰ぐことになる。
次いで頭部に鈍痛。
瞬間、コウタは何が起こったのか察した。
自分の長い長い髪が、棘のある枝に絡まっていたのである。
そして空を覆うように黒い影。
イノシシ型の鬼だ。
おじさんを逃がした安心感で、髪を切ることを忘れた。
たったそれだけのこと。
それが、極限状態において生死を分けたのだ。
イノシシを何十倍も大きくした異形。
足は数十本あり、体は硬い鎧のようなもので覆われている。
なんとなく、ムカデっぽいなと思った。
この山の主である大イノシシが、ムカデ型の蟲に刺されて、鬼になったのだろう。
かわいそうに。こんな醜い姿になってしまって。
お前は本当はもっと威厳があって、力強くて、美しかったはずなのに。
せめてお前の糧になろう。
コウタは、思ったよりすんなりとそれを受け入れることができた。
自然とはこうあるもの。
大好きな自然の中でこうして死ねること。
コウタはすがすがしくもあった。
そっと目を閉じる。
そして、笑いながら、食われるのを待った。

「梓弓  ひけば本末  我が方に  よるこそまされ  恋の心は」

澄んだ声が山に響いた。
それは、コウタにとってはじめて聞くものだったが、本能的にそれが「歌」だということはわかった。
ああ、死ぬ前にそのきれいな歌をもっと聞きたい。そう思ったとき、コウタは異変に気づく。
まだ生きているのだ。
目を開けると、そこには見知らぬ褐色の女が心配そうな顔でコウタをのぞいていた。
着ている服装は明らかに男性だった。
白の着物で、髪は茶色く、短めに整えている。
それ自体は貴族の男性の服装だが、大きな目の三白眼、きれいな鼻筋、ハリのある肌、全てが女のそれだった。
口元には紙煙草。鬼が嫌うシダや銀杏の葉を巻き、その煙を吸うという。最近町で流行っているのだと、以前客に聞いたことがある。
女はコウタが目を開けるのを見てほっとため息をついた。
そしてすぐに自身の短刀をコウタに渡す。

「自分で髪を切れ。勝手がわからんからな」

髪は大事なものという考えからだろうか。
その考え方からして女性らしさを強く感じるコウタ。

「その間にわたしたちは時間を稼ぐ」

わたしたち?
コウタの疑問はすぐに解決する。
女の肩に猫がのっている。
いや、猫のようなもの、という表現の方が正しいのかもしれない。
異常に発達した牙と爪。目は獣のように鋭く、頭部の毛はくるりと尖っている。
その毛並み似合わせるように全身の毛も、らせん状に渦巻いている。

「ぼーっとしてないで手を動かす!」

女からそう言われ、コウタは慌てて自分の髪を短刀でざくざくと切り始めた。
いつものおかっぱ頭になり、ようやく拘束から解放されたコウタ。
そして、なぜ鬼に追われていた自分がまだ食われていないのかを理解する。
鬼が仰向けで倒れているのだ。
そしてその原因は、どうやら目の前にいるこの女と猫のようだった。

「さあ、マクラ。もういっぱつだ」

マクラと呼ばれた猫は、そのかけ声を合図に奇妙な格好をする。
手をバンザイの形にし、足もピンと伸ばす。
棒のような形状だ。
猫がそのような格好をすることでも驚くコウタだったが、更に女の姿を見て目を丸くする。
左腕から、弓が生えているのである。
手の甲と平から、それぞれ赤い弓が、文字通り生えている。
そして、イノシシは先ほどの「棒」のような形でその弓に収まる。
弓と矢の完成である。
弦に引っかけたマクラを目一杯引く女。
放つ。
女は衝撃で尻餅をつく。きゃあという悲鳴が聞こえる。
同時にマクラが高速で射出される。
瞬間、起き上がりかけたイノシシ型の鬼に命中。
その辺の家よりも大きい巨体をすこしだけ浮かし、再度仰向けにする。
草むらがえぐられ、マクラの通った跡がくっきりと見えた。

「すごい」
「あ、いや、この尻餅はその、わざとというか、あれだ、儀式みたいなものだから気にしないでくれ。それより、髪は切り終えたか」

女はアゴに手を当て、ふむふむと言いながらおかっぱ頭のコウタを値踏みする。

「うん、そっちの方が似合ってるじゃないか」

ニコッと笑ったその口元から白い八重歯が見え、コウタは少しどぎまぎする。

「あの、助けていただいてありがとうございます」
「なんのなんの。礼には及ばんよ、コウタくん」
「え、オレの名前、なんで」
「何でもなにも、私は君を探してこの地にやってきたんだよ」
「オレを探して?」
「そうだ。私の名前は紀貫之(きのつらゆき)。はじめまして」

紀貫之はコウタに手を差し伸べ、コウタはそれには応じなかった。

「え、私のことは、その嫌いかい?」
「ああ、いや、体質というか、人間が近づくと吐き気がするんです。3尺以上近づけないんです」
「あ、そうか、体質か! はあーーーーーよかった! 初対面でなにかやらかしたかと思ったー」
「とにかくありがとうございます、紀貫之さん」
「貫之、でかまわない。あと大事なことだから言っておくが」

貫之はコウタの目をじっとみながら真面目な顔でこう続けた。

「私は男だ(キリッ)」
「いや無理があるでしょ。女ですよね?」
「……ええー!? なんでわかっちゃうのー!? じゃなくて、女ではないんだけど」
「いや、だって、普通にかわいいですし」
「は? え、いや、まあ、ええと」

頬に手を当て三白眼をキョロキョロさせる紀貫之だったが、ハタと現状に気づき、再び鬼に対峙する。
イノシシ型の巨大な鬼は、足の一部を破損させながらも元の体勢に戻ろうとしていた。

「ちっ、やはりマクラではこいつに致命傷を与えることは難しいか。これ以上はマクラの体がもたないし」

マクラと呼ばれた猫が、貫之の肩に乗る。
先ほどとは違い、普通の黒猫に戻っている。

「あの、さっき、マクラちゃんが矢みたいになって、貫之さんの手から弓が生えて、えっと、オレ何言ってるんだ?」
「間違ったことは何も言っていない。私の愛猫マクラが矢になって、私が弓となり、撃った」
「ですよね? でもなんで」
「混乱するのもわかる。我々は『和歌』という不思議な力を使って、鬼を退治しているんだ」

貫之は鬼に目をやりながら、器用に胸元から短冊を取り出す。
なにやら文字が書いてある。これが「和歌」なのだろう。

「『和歌』ですか」
「そう。鬼から生まれる『和歌』によって、この世の理(ことわり)から外れた『一時的な超進化』をすることができる」
「超進化」
「そして、君を探していたのはまさにそれが理由だ。コウタ君、君は危機を察知すると急激に髪が伸び、身体能力が上がるという稀血。特異体質を持っているね?」
「えっと、その」

コウタはそれを言われ、表情を暗くした。
稀血(まれち)。忌子(いみご)。
危機が近づくと伸びる髪。
鬼が出現し始めてからは特に伸びる機会も増えた。
村の連中は、コウタが鬼を呼んでいるのだと勘違いし、両親は迫害され、食料にありつけず、命を落とした。
見世物として生きのび、行き着いたのが今も世話になっている宿屋。
以降、住まわせてもらう代わりに、山の案内役を請け負い、なんとか食いつないでいる。
コウタにとって、この「伸びる髪」は忌むべき存在であった。

「すばらしい!」

貫之は山中に響くかという大声で叫んだ。
両手を一杯に広げて、全身で喜びを表現している。

「ああ、ついに見つけた理想の人間を。なんてすばらしい能力なんだ!」
「……」
「コウタ君、君がいれば、鬼なんて恐るるに足りない。鬼を全て駆逐するのも夢じゃない!」
「はい?」
「まずは、この危機を脱するために一肌脱いでもらおうか」

そう言うと貫之はコウタから短刀をもらうと、自身の人差し指を切った。
流れ出る血をコウタに向けて一言。

「指を舐めてくれ」
「え、いやです」
「いいから舐めろ」

悶着しているふたりの間に割って入るように、「ゴアァ」という不気味な鳴き声が響く。
鬼が威嚇をしたのだ。

「ほら、もう来るって! いいから舐めて」
「だからなんで」
「なんでもなにも、そういうものなの! 血を舐めると変身するって術なの! 指が嫌ならどこでもいいからさぁ、早く舐めてよぅ! じゃなかったらみんな死んじゃうよぅ! ふえーん」
「性格変わってるじゃないですか」

しくしく泣き始める貫之。
足下にはぐったりして苦しそうな猫のマクラ。
横には今にも襲いかかってきそうな鬼。

「だってオレ、3尺以上近づくとゲロ吐いちゃいます」
「ゲロ吐いたっていいからぁ! 早くぅ!」

コウタは意を決した。

「じゃあ、1回だけ!」
「…!! ほんと?」

貫之の顔がぱあっと明るくなる。

「とりあえず」
「ああ、それでいい! とりあえず生きて帰って、それから今後のことは考えよう!」
「で、どうすれば?」
「だから、血を舐めて! そうすればマクラみたいに変身するから」
「……ええい、どうにでもなれ!」

コウタは貫之の手を取り、人差し指をねぶる。
貫之は「んっ」と小さくうめき、顔を赤くする。
コウタはゲロを吐く。
瞬間、コウタから光が発せられる。
爪は急激に伸びて鋭く生え変わり、歯は牙となり、髪の毛は竜巻のように渦巻いて空に向かって伸びる。まるで一本の巨大な「矢」のようだった。神々しさすらあった。ゲロをのぞけば。
そして貫行も自分自身の変化に驚く。

「何だこれは!」

言われて振り向いたコウタは目を見開く。
貫行の腕から生えたのは、大人3人分の長さになろうかという巨大な弓だった。

「マクラの時と比べ物にならないんだけど! コウタくん、君の特異体質と連動して、私の方もありえない超進化を遂げたようだ。なんてすばらしいんだ!」
「いや、こっちもついていけないんだけど」
「コウタくん、本当にありがとう」

まっすぐに向けられたその言葉に、コウタは照れて下を向く。
面と向かって言われることはあまりない。
金をはらってるから当然だとか、忌子だからせめて役に立てとか、そんなことを言われ続けてきた。
だから、まっすぐな感謝はなんか苦手だ。
コウタは鼻を少しかいてから、紀貫之の方を向く。

「いいえ、礼はいいです。さっさと片付けましょう」
「そうか! 話が早くて助かる! では、放たれてくれ」
「はい? え、これまさか。俺が矢になるってこと?」
「そりゃそうだろう」
「いやそうかもですが、心の準備が。あと吐き気が」
「『さっさと片付けましょう』ってかっこいいこと言ってたじゃないか」
「まさか自分が矢になるとは思っても見なかったというか」
「ゴアァァァ!!」

2人のやりとりを鬼がさえぎる。
四の五の言ってられない状況を悟り、コウタは貫行から生えた巨大な弓の弦に自らを添える。

「え、貫行さん、これで合ってます?」
「合ってるかどうかはわからないけど早くして! 重すぎて倒れそう!」
「なんかよくわからないけど、発射されます! あと、ゲロ吐きます!」
「なんでもいいから早く発射してー!」

次の瞬間、「ズドン」という衝撃音が山全体に響き渡り、こだまする。
コウタは、ゲロをまき散らしなが高速で射出され、かなり遠くの山肌に「棒状」のまま突き刺さった。
急に真っ暗になった視界を取り戻すため、コウタは自分の頭を無理矢理引っこ抜いた。
そして状況を確認する。
コウタが通ってきたであろうその軌跡上の草木は、土ごとえぐり取られ、焼けたような匂いと煙が立ち込める。
その軌跡の出発点には、大きな穴が開いていた。
その穴の持ち主は巨大なイノシシ型の鬼。

「すごい、あの分厚い皮膚を貫通させるとは」

遠くから紀貫之が話しかける。
貫之の手には、すでに弓が消えていた。
コウタの爪と歯と髪もボロリと崩れ、元に戻った。

「コウタくん、大丈夫かい?」
「ゲロまみれですけど、怪我は全然ないです。鬼はどうなりました?」
「ああ、君のおかげで倒したよ。見るかい?」

コウタは穴の空いた鬼に近づく。
それは、時折ビクンビクンと動く程度で、明らかに死を待つのみの生き物であった。
貫行は口元の紙煙草をプッと地面に捨て、新しい煙草をくわえ、不思議な棒を擦ると火をつける。
煙をゆっくり吸い込み、けほけほっとむせる。

「貫之さん、涙目になるくらいなら吸わない方が」
「いやいや、泣いてなんかいないから。わたしはかっこいい都会の男で通ってるから」
「どう見ても田舎の純朴な女ですけど」
「いいの! っていうかこれ吸っておかないと、和歌の毒にやられちゃうの!」
「和歌の毒?」
「ああ。ここからが私の本業はここからでね」

煙草でむせた一件はなかったことのように、貫之は胸元から無地の短冊を取り出した。
そして鬼に近づくと、穴の空いた血だらけの箇所に短冊の角をブスリと刺した。

「え? なにを」
「和歌の毒をね。この特殊な短冊で吸い出すんだ」

一瞬短冊が光ったと思うと、血が短冊に染みていく。
そしてその血は奇妙なことに「文字」を形成し出した。
出来上がったその文字をながめて、貫行はおごそかにそれを詠む。

「思ひいづる  ときはの山の  岩つつじ  言はねばこそあれ  恋しきものを」

貫行はしばらくそれを見つめ、胸元に仕舞い込む。

「コウタくん、これが『和歌』だ。蟲の毒が鬼の中で熟成されたもので、鬼を倒した際に現れる、不思議な力の源だ。私はこれを集めている。例えばさっき君が矢になったあれも『和歌』の力だ」

貫行は別の短冊を出す。こちらは薄く血の文字が残っている。
その短冊を貫行自身の腕に刺す。すると血が短冊に移り、文字が濃くなった。

「こうやって、和歌を自身に注入することで、不思議な力を得ることができる。私はこの和歌を集めるために全国を旅しているんだ」

貫之は、先ほどまで鬼だったものに目をやる。
毒が抜けて、ボロボロと「ガワ」がくずれさり、なかからイノシシが現れた。

「おそらく、ムカデ型の蟲に刺されたのだろう。かわいそうに。イノシシだって大切な命だ。蟲に命をもてあそばれるのは忍びない」

貫行は、一歩、また一歩とコウタに近づく。

「私は鬼のいない世界を作りたい。そのために君の力が必要なんだ。ずっとずっと探していたんだ」

貫行はコウタに手を差し伸べる

「コウタくん、和歌を集める旅に同行してほしい」

やわらかい春風がコウタたちを包み込む。
木々がサワサワとゆらぎ花々は優しい匂いをただよわせる。
コウタは貫行の見つめ、ニッコリと笑いながら答えた。

「断ります」
「…………ふぇ?」

続く

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この記事を書いた人

・アラフォー世代向け決めつけ考察WEBマガジン「ドクダンヘンケングン」編集長
・IT企業の中間管理職
・ふたりの小学男児の父
・ギャル好き

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